遙か昔の古(いにしへ)の。隅に在りける村一つ。
神さま居らぬ其の村に、神さま來たれり一柱。
村人(むらひと)喜ひ招き入れ、まろかみさまと呼ひまをす。

遙か昔の古の。隅に在りける村一つ。
まろかみさまの居らるる此処に、稻荷の神さま現るる。
村人(まめひと)畏れて招き入れ、橋姫さまをお祭りまをす。

遙か昔の少しく昔。隅に在りける村一つ。
橋姫さまの居らるる此処で、病(やまひ)禍(わざわひ)蔓延す。
まろかみさまの祟りか如何、思ふ村人今は無し。

遙か昔の少しく昔。隅に在りける村跡(むら)一つ。
絶えて間もなき其の村跡に、呆け佇む少女(をとめ)か一人。
まろかみさまと少女の話、草木のほかは神のみそ知る。



昔、ここには一つの村があったそうです。しかし、その地には神さまはおられませんでした。
その村に、西の方より神さまが来られます。天津神であろうと言われていますが詳細は不明です。
人々はこれを歓迎し、まろがみ(客神/稀神)さまとしてお祭りしました。

少し時を経て。まろがみさまの治めるこの地に稲荷神が訪れます。
稲荷神は「自分の娘をここの産土神とするように」と言い、村人は畏れてこれに従います。
これによりこの地を治める神さまはまろがみさまから稻生橋姫命へ変わりました。
まろがみさまは、最後まで出てくることはありませんでした。

更に時を経て。まろがみさまの事など忘れていたこの村に、突然未曾有の疫病と大飢饉が蔓延します。
実は橋姫さまに求婚を断られた、とある天神さまの仕業なのですが、
村人は口々に「まろがみさまの祟り」と言います。
まろがみさまが否定も肯定もしないうちに、村人は絶えて無くなりました。

わずかに時を経て。全滅したかのように思われた村の片隅に、一人の少女が立っていました。
たまたま見つけたまろがみさまは、この少女を自らの社に住まわせることにしました。
少女は大人しく従います。この時少女は、まろがみさまに如何にして復讐するか、
そのことしか頭にありませんでした。

そして今に至るまで、紆余曲折あったでしょうが、
三柱の神さまと、一人の巫女がここにはいます。
まろがみさまこと、『天諠主~』。
橋姫さまこと、『稻生橋姫命』。
少女こと、『雲隱言葉命』。
そうして巫女の、『澪標紗綾』。

なにがあってこうなったのか。
それはまさしく、神のみぞ知る。