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ALcot ハニカム 『クレナイノツキ』2009年7月24日発売
タイトル クレナイノツキ
ブランド ALcot Honey Comb
発売日 2009年07月24日
ジャンル 大和撫子恋愛ADV
対応OS Windows2000/XP/Vista
価格 8800円
中古相場 1180円
原画 Riv、蒼魚真青
シナリオ 沙月with企画屋
音楽 AngelNote
ボイス
FD
全年齢版
作品あらすじを表示/非表示
山の頂から下りてくる冷たい風が木々の梢を山吹色に変え始めたというのに烏丸紅矢は一人、
汗まみれになって人の入らぬ深い森の中を歩いていた。
二週間ほど前のこと。
この山の麓にあるキャンプ場を流れる川に
獣に食いちぎられたと思わしき異形の者の『手』が流れついたからだ。
異様に固く厚い皮膚。
動物の毛のような剛毛。
そして太く節くれ立った指に鋭く尖った凶暴な爪。
どう猛な野獣にしか備わっていないはずのそれらをそろえた『手』は、
しかし、どう見ても人間の『手』にしか見えなかった。
それだけではない。
その熊でも一撃で殴り殺せそうな剛腕の薬指には、
まるで婚約指輪でもあるかのように豪華な宝石のついた指輪がはまっていたのだった。
この奇妙な事件はとある雑誌により世間の知る所となり、
『現代の一条戻り橋事件』として大きくとり上げられる事になった。
その後、警察がこの謎の『手』をDNA分析にかけて調べた結果、
この手の持ち主は1月前に行方不明になっていたとある資産家の妻のものだと判明した。
この資産家の妻は1月前、この山の近くのゴルフ場に知り合いと遊びに来ていたが一人で
トイレに行くと言って仲間と別れそのまま行方不明になっていたのだった。
警察は夫人の死因を熊か野犬によるものと断定したが、
夫人の腕がなぜかくも奇妙な「剛腕」となったのかの説明はできなかった。
謎は残ったが、DNAの鑑定が出たことで訳の分からない事件の幕を引きにかかったのである。
だが、夫人の夫は当然警察のその結論に納得できなかった。
自分の妻が化け物だとは信じたくないのは当たり前である。
それで夫は妻の死を別の角度から立証する為に保険会社の下請けである興信所に頼み、
妻の遺体の他の部分の捜索を依頼したのである。
かくして、「めんどくせぇ。お前が行ってこい」という所長の温かい声援を受けて
興信所就職二年目の駆け出し探偵である烏丸紅矢は深い森の中をさまよっている。
――7時間も。
既に陽は大分西に傾き、つるべ落としと言われる速さで山の稜線に近づきつつある。
このままではあと何時間もせぬうちに山は漆黒の闇の中に沈むだろう。
しかし、紅矢は取るべき道も、帰るべき方角も見いだせないまま
下生えが行く手を遮る山中をうろつき回る事しか出来なかった。
―――と、その時。
疲労と空腹に意識をもうろうとさせていた紅矢の耳に微かな声が飛び込んできた。
幻聴かもしれない。
あえて儚い希望を抱かぬよう、しかしわき起こる押さえきれない期待に
背中を押されるようにして歩を速めた紅矢の耳に今度こそはっきりとした声が聞こえてきた。
「若い女の子の声だ。……それも二人分」
若い女性がいるなら人里もそんなに遠くないはず。
これで助かった―――と、勢いよく踏み込んで行った藪の先、紅矢はいきなり足場を失った。
「あっ」と思った次の瞬間。
紅矢の体は勢いよく水にたたきつけられ、空気を失った肺にしこたま水を吸い込んだ。
空腹、疲労、そして打撲に窒息。
水からはい上がろうとしてもがく紅矢の消えゆく意識に最後に飛び込んできたのは
天女のような美しい裸体をさらして驚く二人の美少女の姿だった。
「あっ、お母さん。気がつかれたわ」
気がついてまず始めに感じたのは、
よく陽に当てて干した布団のふかふかほわほわな温かさと、
干し草のようなお日様の匂いだった。
次に檜の板を張った天井とそれを支える檜の柱が目に入り、
その柱にそって視線を下ろすと
心配そうに自分を見下ろして座る三人の巫女装束の女性たちがそこにいた。
「どこか痛むところはありませんか?」
呆然と三人を見ている紅矢におかっぱ頭の巫女装束の少女、鷺宮沙生が尋ねた。
「いや……別に……君たちが俺を?」
「はい、お姉ちゃんと二人して運んだんですけど、すっごく重くて何回も下に落としちゃったんです。
たんこぶとか出来てなくて本当によかったぁ」
と、沙生の隣に座る金髪の巫女少女、姫織がひまわりの様に微笑んて言った。
その笑顔に釣られて思わず笑みを返すと、
最後の一人、二人の母親である鷺宮ステラが紅矢に深々と頭を下げて言った。
「ご無事で何よりです。
突然ですが、貴方様にはこの二人のうちどちらかを娶っていただかなければなりません」
どこからどう見ても外人そのものの容貌のステラが流暢な日本語でそう語るのにも驚きながら
紅矢は訳が分からず二人を見る。
紅矢と視線と合わせると微笑みながらもどこか影のある表情で俯く沙生。
ちらちらと紅矢に視線を送りながらも紅矢の視線と合うと
顔を真っ赤にして頭から蒸気を噴きだして顔を伏せる姫織。
二人の生まれた鷺宮家は千年以上続く神聖な鷺宮神社の神主の家系であり、
鷺宮神社のある曲木村の宗主の家系でもあるという。
そしてその鷺宮の娘は生涯、
家族と伴侶になるもの以外にその肌を許すべからずという掟があるのだという。
何者かにちぎられた不可解な『手』
そしてその『手』の落ちていた山の奥深くにひっそりと存在する古い古い因習に縛られた小さな山村。
その村を支配する鷺宮家の二人の巫女と結婚。
二人との出会いは猟奇事件を解決しに来たはずの紅矢の運命を
予想もしなかった方へと押し流して行くのだった………
banner_c01.jpg 鷺宮沙生(中瀬ひな)
「大和撫子」という言葉がよく似合う鷺宮神社の巫女。姫織の姉。
鷺宮神社に代々務める宮司の実子で、次期後継者に相応しい霊力を持っている。
長姉という立場的なものも手伝ってかしっかりとした性格。
紅矢にひけを取らない程の武道の実力も併せ持つ。
紅矢と触れあうことで何処か安心感を覚えてしまうのは里の掟によるものなのか、それとも……。
banner_c02.jpg 鷺宮姫織(大野まりな)
鷺宮神社の巫女で沙生とは血の繋がらない妹。
幼少の頃に他界した父親は日本人だが、母親ステラの血を色濃く受け継いだ所為か、容姿は金髪碧眼。それ故か「日本風」「和風」なものを好み、姉・沙生のような「大和撫子」を目指している。
村人からはなぜか差別を受けている様子。
そのため掟とはいえ伴侶になるかもしれない紅矢の優しさに触れ、紅矢を兄とも夫とも慕うようになる。
小動物のように穏やかかつ優しい性格。ちょっとドジっ子。
banner_c03.jpg 天野心亜(みる)
紅矢と同じ養護院で育った一つ下の幼馴染み。
里親の下、アメリカで異例の早さで医師免許を取得した才媛。
ただし、日本ではアメリカの医師免許が使用できない為、現在は昔から慕っている紅矢が勤める興信所で医療関係のアドバイザーとしてアルバイトの傍ら、日本の医師免許取得を目指している。
類稀な才女ではあるが、長電話や長風呂を好む普通の女の子らしい趣味を持つ。
banner_c04.jpg 音無朱梨(一色ヒカル)
山奥の庵にたった一人で住んでいる謎の巫女。
禁域である「穏の石刀(おんのいわと)」の秘密を知っているらしいが……
何処か達観したような表情が多い、里の人間誰もが一目置く存在。
人としての心と自分の望みの狭間で揺らいでいく。

購入動機 『絵と設定に惹かれて』
オススメ度 お気に度 シナリオ テキスト 立ち絵 一枚絵 音楽 雰囲気
/10 /10 /10 /10 /10 /10 /10 /10
お気に入りキャラ 鷺宮沙生
減点対象 第一項、第三項(該当者は補正オススメ度-3)

 ページジャンプ
 1.序
 2.文章全般について
 3.イラストなどについて
 4.音楽、歌などについて
 5.キャラクターについて


 
……ふむ。
ぬっしさまー、遊びに来まし……なにやってるんですか?
……このちゃん、人間だよね?
ケンカ売ってるんですか!? たしかに、少し微妙なところですけど!
ああいや、ごめん。このちゃんと被るキャラが出てくる作品をやってたから、つい
わたしと被る? なにをやってたんですか?
これ
『クレナイノツキ』。……たしかに、巫女が二人いますけど。
それとさっきの質問となんの関係があるのですか?
よく言うじゃない。『山奥で若い娘と出逢って嫁にするのは死亡フラグだぜ!』って
……そんなフランクな格言、ないと思いますけど……。そういうお話なのですか? これ
いや。そうかと思ってたけど違った
格言がいきなり破綻した気がします。
……じゃあ、どんなお話なのですか? 気になるので教えてください!
良いけど……。遊びに来たんじゃないの?
主さまと一緒にいられればいいです
……あ、そう。じゃあ説明しようか
幕間 ページジャンプへ戻る
 文章全般について
とある探偵が主人公なんだけど。ある謎を追って山に入ったら迷ってしまったの。
すると、どこからか少女の声が。助かった、と思って声の方に行くと、そこは崖。
落ちた先には水浴びをする二人の少女が。

主人公はその肢体をばっちり見た後、頭を打って意識不明に。
…………そのまま死んじゃえばいいんです
いや、それだとシナリオが成り立たないから。……気がつくと布団の中。
そして目の前に居る三人の巫女。その中には先程の少女も。
自分の裸を見た人間を助けるなんて、同じ巫女としてゆるせませんっ!
その発言は巫女としてどうかと思うけど。……で、その巫女の内、母親らしき人が言うの。
『あなたはどちらかを娶らねばなりません』と。
死亡フラグですね
僕もそう思ったけどね。
……で、巫女たちとの村での生活をすると同時に村の謎、
更には依頼された事件の謎を探っていく訳。
村のを深く知りすぎて殺されてしまうんですね
どれだけ主人公を殺害したい訳!? 主人公死んだらバッドエンドじゃない!
……ってこれ見よがしに『こなかな』を出さない!
むぅ。……で、面白かったのですか?
微妙。……いや、主人公殺せば良いって問題じゃないからそんな嬉しそうな顔しないの
……じゃあ、なにがダメだったのですか
んー、伝記物なのに結論を超ご都合主義で固めた辺りかな、一番の原因は
……はい?
例えば、『この手品にはタネも仕掛けもございません』って常套句を言う手品師が、
本当に魔法使いでタネも仕掛けも無かったような。

もう一つ言うなら、『過去に行く方法は?』という問いの答えが、
『私の発明したタイムマシンを使う』だった時のような感じ。
……やるせない感じがすごく伝わってきます
うん。
まあそんな感じの、物語の肝が全部都合の良い便利なもので固められているシナリオなんだよね
むぅ。ダメなのはそこだけですか?
ダメというか、不満な所はあるかな。
ハーレムエンドの時のヒロインの扱いとか、シナリオの分岐の仕方とか
……ハーレムエンドがあるのですか、これ
うん。Trueエンドなんだけどね。
Trueだから物語の根幹に関わってきて、シナリオ的にも一番描写がしっかりしているんだけど、
その分、ヒロインの攻略の仕方がぞんざいなんだよ。
個別シナリオの苦労は一体、という位あっさり攻略出来ちゃう。
『あちらを立てればこちらが立たぬ』っていいます
よく知ってるね。偉い偉い
ふふー。……でも、ちゃんと恋愛しなきゃダメだと思います!
今回はこのちゃんと同意見かな。削るにしても一番重要な所を削っちゃいけないよね
ですです。……シナリオの分岐で不満って、どういうことですか?
不満というか、容赦無いというか。えげつない選択肢なんだよね
……ほぇ?
例えば。家が火事になりました。
幼なじみのAさんと義理の妹のBさん、どちらかしか助けられません。
どちらを助けますか? みたいな
…………えげつないです
でしょう? どちらも攻略対象なんだから、嫌な選択肢だよねえ
片方のシナリオをやってすぐ別のシナリオをやるのに、すごい罪悪感があります
うんうん。……まあシナリオはそんな感じ。
テキストは、良かったよ。隠しごとをしている村の胡散臭さがよく出てて
……それって、褒めてますか?
褒めてる褒めてる。伝記物は胡散臭さが出ててなんぼだからね。
あ。伝記物にありがちな凌辱もちょっとあるから注意ね。ヒロインは未遂だけど
大事なことをさらっと流しました!? というか、そういうのは最初にいってください!
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 イラストなどについて
絵に関しては……そうだなあ。目に少し特徴があるけれど、後は概ね綺麗だと思うよ
特徴?
何と言うか、書き方が濃いんだよね。
作品全体の雰囲気が淡い感じだからミスマッチに思える。
でも、絵を見ると、紅葉とか鮮やかなのが多いので濃い方がいいんじゃないですか?
……ふむ。確かにそう言われるとそういう風に感じなくもないね
ですよね? ……それに、背景が鮮やかなのに目の描き方が弱かったら背景に負けちゃいます
むむ。……今日は凄いね、このちゃん。偉い偉い
ふふー。……いたっ! 痛い!? ど、どうして叩くのですか!?
や、何となく
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 音楽、歌などについて
OP『クレナイノツキ』 ED『』
音楽はOPを含めて良かったね。
何と言うか、まさに山奥に昔のまま眠っていた秘境を表現したって感じで
……なにもしゃべらないです
……すみませんでした。ついカッとなってやりました。反省しています
どこの青少年ですか、主さま……。もう、わかりました
ありがとう。しかしまあ、もう音楽について僕から言う事は無いんだけどね。
ただ、出来ればこの感想を一言で纏めたいんだけど……、出来る? このちゃん。
山奥に昔のまま眠っていた秘境……。……あ
お、何か妙案が?
『幻想きょ――
それは偉大過ぎる先駆者が居るからダメ
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 キャラクターについて
ところで、わたしと似ているキャラってどれなのですか?
ん? ああ、この沙生と姫織を足して二で割ったのに砂糖を混ぜたらこのちゃんっぽいなあ、って
……主さまの中でどういうキャラなんですか、わたし。調味料が出てきましたけど
一言で簡単に表せるほど、人間は浅くないのですよ、言葉さん
何時間かかってもいいので表してください
…………数時間で言い尽くせるほど浅くは――
そんなに深いのですか、わたし!? 特に考えてなかったなら正直にそういってください!
何も考えないでただ漠然とそう思ってました
本当にそうだったのですか!?
……しまった。
…………ほら、漠然と、何か似てるなあって思う事あるじゃない? それだよ
……今、なにか最初にいった気がします
脳の病気じゃない?
せめて気のせいっていってください!?
もう、いいですっ。で、主さまの好きなのは、どのキャラなのですか?
沙生
即答!?
いやー、沙生一筋だったね。パーフェクですよ、この娘。他のキャラなんて要らない
……そんなに他のキャラはダメだったのですか?
んー、そういう訳じゃないんだけど。
メイン二人以外のシナリオって、取ってつけた感じだったんだよねえ。

ALcotってそういうシナリオ構成するんだけどさ。『CloverHeart's』みたいに。
で、姫織は好みじゃなかったから沙生が一番。
じゃあ、消去法で沙生を選んだのですね?
いやまさか。最初に見た瞬間に衝撃が走りましたよ。
で、他にこれを超えるキャラが居なかっただけの話
……むー。じゃあ、わたしと沙生、どっちがいいんですか!
またそういう事を言う……。二次元と三次元だよ?
このちゃんの方が良いに決まっているじゃない
じゃあ、沙生が本当にいたらどっちがいいですか?
・このちゃんだよ
今のコンマ一秒はなんですか
……はっはっは
………………ひっく。……主さま、酷いです
……ごめん、冗談が過ぎた。
沙生が本当に居ようが何だろうが、ブッチギリでこのちゃんが一番だよ
……ほんとうですか?
本当々々。誓っても良い
…………じゃあ、ゆるします。でも、もういわないでください
はい
あと、ぎゅってしてください
はい
……ふふー
……精神年齢が高いんだか低いんだか分からないなあ
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 ひとこと。
キャラが好きで軽い凌辱に耐性があるなら、やってみても良いかもね
  
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いつか、届く、あの空に。
きっと、澄みわたる朝色よりも、
神樹の館